西郊民俗談話会 

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会のあゆみ 『西郊民俗』の50年
大島 建彦


「『西郊民俗』の50年」
『東京新聞』2007年10月30日夕刊「CULTURE」掲載

第200・201号道祖神特集号刊行に際しての記事

 西郊民俗談話会という民俗学の研究会は、1957(昭和32)年の6月から、毎年4冊ずつ会誌『西郊民俗』の刊行を続けて、50年めの本年9月には、200号と201号との合併記念号を出すことができた。
 このささやかなグループは、1951年の10月から、毎月1回ずつ有志の研究者が集まり、自由な発表を中心に活発な討議をくり返して、記念号の刊行とともに、672回めの研究会を開いている。現在の会員は、約300人であるが、筆者は発足の当初からこの会に加わり、会誌の創刊からその運営にあずかってきた。
 日本の民俗学は、はじめから大学などのアカデミズムとはかかわりなく、むしろ民間在野の学問として、各地の研究グループを基盤に、着実な研究成果をあげていた。今日でも、大学の講義などとは別に、各地の研究会などがすくなくないのは、あるいは考古学や天文学などの実情と通ずるかもしれない。
 そういう意味では、この西郊民俗談話会も、在野の研究グループの一つに位置づけられよう。西郊という会名のいわれは、東京の西部の研究者を中心に始められたからである。しかも、多くの地方の研究会と違って、東京やその周辺の在住者に限らないで、日本の各地の会員に加わってもらって、その独自の役割をはたしてきた。
 この半世紀の間に日本の社会の変化につれて、民間の生活の様相も変わっており、新しい研究の方法も求められている。そうはいっても、もともと民俗学とは、社会の近代化にともなう、伝承文化の衰滅とかかわる、深刻な危機感につらぬかれたものであった。社会の変化が著しければ、それだけ緊急の調査が望まれるはずである。ほかの研究会にもまして、西郊民俗談話会の会員は、つねに現地での聞きとり調査を中心に、ねばり強く民俗の実態と取りくんでいる。
 このたびの記念号は、道祖神の特集としてまとめられた。そこには、各地の14名の会員から、それぞれ境界の信仰に関する、さまざまな論説や報告を寄せられている。これまでの50年間にも、水神、無縁仏、世間話、贈答、祈願、餅、凧揚げ、川漁、産神、粥、かまどというように、いくつものテーマの特集号を出して、新しい問題の提起をおこなってきた。
 この西郊民俗談話会は、年間2,000円の会費の範囲で、はじめから無理な要求など出さないで、まったく自由な運営にまかされている。あらかじめ何もわりあてられなくても、めいめい都合のよいときに出てきては、つぎつぎに発表を進めてゆくのである。
 そのような自由な方式をとりながらも、なお民俗学の初心を失うことなく、いつでも新しいメンバーを迎えいれて、半世紀あまりもその活動を続けており、これからも一層の充実を期待されているのは、本当にしあわせなことである。
 
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